1年生:電車ごっこ
2年生:街の楽しい電車たち
授業者 中西 大
本時の主張点
異学年が情報を共有することで,楽しくて人気のある電車にするために必要な工夫に気付き,自分の活動に生かす姿が見られるだろう。
1.授業づくりの「しかけ」と子どもの探究
(1)本時におけるしかけ
1年生では,「2年生が見つけた貴志川線の電車に人気がある理由を伝える」というしかけにより,ただ遊べればいいということではなく,より楽しめるように人気のある電車を作ろうと調整を始めると考えた。
2年生では,人気の理由だと自分なりに気付いたことを1年生に伝えた。しかし,自分目線だけではなく相手意識や対象を広げられるよう,貴志川線に観光として訪れる人々の意識調査資料をしかけとして投入した。
(2)子どもの探究
1年生は,「楽しい電車づくり」を大きな枠として捉えていたようで,電車づくりそのものが楽しくできるようにしようと考えていた。そのため,「みんなでつくる」などという考えが数人に表れており,授業者が意図した電車そのものを楽しいものにするというところからずれてしまっていた。そのため,計画していた2年生がもつ人気のある電車の秘密を伝えてもらうことに必然性がなく,子どもたちの反応も鈍いものになってしまったのではないかと考える。
しかし,2年生に教えてもらうことで「そういうことを考えればいいのか。」という焦点化だったり,課題の捉え方を修正したりする時間にもなり,1年生が8人で活動している時間に気づけなかった周囲の友達との捉え方の違いをも修正できたかと判断できる面もある。子どもたちは,ミニボードに書いた友達の考えに触れ,2年生から得た情報をさらに確かなものにしたり,自分の幅を広げたりしているようにも感じた。下の写真は,「みんなでつくる」という考えだけだった男児が,2年生の情報を得て,ミニボードに電車への装飾などを考え始めた瞬間である。
また,自分が電車をつくる段階になったときに,どんなものを作れば良いのかというイメージを1年生なりに持てたという実感がある。上の写真のように,2年生が見学時に撮影した写真を見せながら話したことにもあり,またそれは,授業最終盤からスタートした電車づくりにある。本時の姿ではなかったが,次の時間に電車づくりをした際,周りに絵を描くだけではなく,こまない部品などを作り込んだり,内装にもこだわったりして,ただ電車ごっこで乗るだけのおもちゃではなく,見せ合って楽しめる,もしくは自分が電車の中に入ってあたかも運転手になったかのようにして遊べる工夫がされていたからである。
上の写真は,友達の考えに見入る1年生の様子である。
2年生については,前時までの取り組みで自分が一番強く感じていた人気の理由を出してしまっていたことに,本時の盛り上がり欠如の原因があると考察できる。交流学習を行っている西広分校の子どもたちにそのことを伝える機会があり,その時点で一番言いたいことを伝えてしまっていたため,改めて本時で互いに共有する必要を感じにくかったのだろう。
ぎこちなく,人気の理由を出し合う2年生の様子が見て取れた。
しかし,授業者が遅めのしかけを打ったとき,子どもたちの新たな探究が始まったと確信している。1年生に電車の人気の秘密を教えたあと,電車以外にある人気の秘密を授業者が提示する。それは,大人目線の資料ではあるが,街の様子に視点を変えていくための重要な要素となる。下の写真は,授業者が「人気の理由は電車だけなのか」と発問した場面で,次いでロイロノートで資料を配付し,子どもたちが読み始めている場面である。
そこには,貴志駅の建物・カフェ・自然・ニタマなどをめあてにした乗客の意見が示されており,電車以外にも貴志川線が人気の理由が示されている。そして,それを読んだ子どもたちは,また見学に行きたいと話し始めたのである。自分たちが最初に予想をして見学したこと以外にも,まだ理由があるなど,予想外の視点が,子どもたちのさらなる探究意欲を動かしたと考えている。
2.協議会(アンケート)より
・生活科として,たっぷりと活動をさせたこのような資質・能力を高める授業を行い,さらに活動へつなげる単元構成はよい。
・2年の書く力,自分の考えを書き綴る力は非常に高く,日ごろの積み重ねを感じた。
・異学年が関わる場面をしっかりとつくり,異年齢集団のメリットを見せられていた。
・「自立への基礎」が感じられた。複式だからこそ、より大切な資質だと感じた。
・生活科という教科の特性から、1時間座学よりは,後半15分程度でも活動場面を入れた方がよい。また,発達の段階からも,その方が集中して取り組めるように思う。
・子どもたちにとって「電車」という教材がどのような価値がるかをおさえておく必要がある。電車やバス通学がおおい本校の状況からして,遊びにつながるものでもあり,日常生活にあるものであり,学びであり遊びにもつながる柔軟な対象だった。
・異学年が異内容で学ぶ学級で,直間指導を工夫している。そのような姿が本時でも見いだされていた。直接指導以外では。両学年のおおよそ中央の位置にいて,子どもたちの様子をみとっていた。そのため,特に2年生では,子どもたちの自学自習があり自分たちで追求する学びの裏打ちになっている。
・共通テーマで関わりながら異学年が学び合う様子は,単純にバラバラに学びを追求するのではなくつながりながら学ぶ複式指導をする上でのしかけになっていた。
・「働く人はなにをしているかではなく,何を見ているか。」「だれが電車を走らせているか。」のような課題設定(発問)を行うことによって,子どもたちがさらに深く探るきかっけになることも考えられる。
・電車ごっこから,運転手や車掌,駅員さんの動きなど,ものから人への視点の移り変わりも生活のプロセスの中でつなげていけるといい。電車を動かすシステムを再現することで,人の働きについても考えるきっかけとなる。教室での事実と,見学などによる事実をつなげられるようにもしたい。
3.まとめ
異学年がこのように情報を共有することで,互いの学びが深まることや,前述のような軌道修正のようなことも可能になると感じた。また,遊びと日常生活を融合させ,楽しみながらその特性に気付き,社会の仕組みへとつなげることができ,そのように意図して単元計画なども進めたい。
反面,低学年の生活科における学び方として不十分な点があり,十分な具体物を用いたり,遊んだりする活動を授業内に配置し,子どもたちの集中を継続させる手立ても忘れてはいけない。