1.図画工作科の本質
図画工作科における学びは,自分以外の外の世界(外的世界)と関わりをもった瞬間から始まる。ここでいう外的世界とは,自然・社会・文化的な環境の全てを含んでいる。子どもたちは全身の感覚を働かせて,その外的世界と関わることで活動を展開していくのである。
その活動過程において,子どもは外的世界を自らの心と身体で受け取り,自分なりの意味や価値をつくりだすとともに認識を深めていく。ここで特に重要となるのは,感性の働きである。感性は,外的世界を捉えるセンサーのようなもので,個々に異なり備わっている。子どもはそれぞれもつ豊かな感性を働かせ,身の回りに広がる未知の世界に全身で関わり,自分なりの価値や意味の創造を行うのである。その過程は表現活動とも捉えられるし,結果として生み出されたものが作品なのである。
感性の働きによって生まれた表現活動や作品はそれぞれの子どもによって多様な現れ方をし,色や形には子どもの個性が反映されている。つまり,作品や表現活動は,自分自身の投影なのである。また,個々の中に形成されたイメージが色や形となって表出されて作品として外化される時,その鑑賞活動をとおして,自分とは異なる感性やものの見方を知ることができるようになる。他者との出合いは,やがて色や形を媒介とするコミュニケーション(相互に伝え合う活動)へとつながり,外的世界の認識を深め,共有することにつながっていく。
さらに,図画工作科における学びを深める上で欠かせないのが知性の働きである。感性的に捉えたことについて言葉で語るなどの言語活動を行うことにより,自他のつくり出したものの価値や意味を確かなものにすることができる。つまり,知性的な活動と感性的な表現活動が結びつくことで,外的世界や“自分”に関する認識をより一層深めていくことができるのである。
感性と理性の双方の働きを活性化することは,人間の最も基本的な姿であり,この活動を子どもの時期に深く体験させることが,これからの成長をよりよいものにするだろう。図画工作科における,このような成長は他の多くの教科の学びを支え,子どもの成長を広げていく力として機能するだろう。
2.図画工作科における育みたい探究力と省察性,見方・考え方
*育みたい探究力…図画工作科の見方・考え方を働かせながら,目の前の未知の問題に対して,探究のプロセスをとおして,解決に取り組む資質・能力
*育みたい省察性図画工作科の見方・考え方を働かせながら,自らの学びにおいて学びの方法や道筋を調整・改善したり,学びを意味付けたり,学んだことを自己の生活や行動につなげたりする自己効力感に支えられた資質・能力
*見方・考え方感性を働かせ外的世界を心と身体で受け取ると共に,形や色などを造形的な視点で捉え,イメージを膨らませながら,自分にとっての意味や価値をつくりだすことや他者や異文化を理解すること
3.図画工作科における探究のプロセスをとおした学びのイメージ(単元)
4.自己調整を生む指導
図画工作科における自己調整とは,造形的な見方・考え方を働かせながら自分にとっての意味や価値を模索することである。あらゆる題材において,とりわけ創造的な表現活動において,子どもは,それぞれにもつゴール(表現したいこと)に向かって活動する。そのゴールは,個々のもつ感性により設定されており,その子どものみぞ知るものである。また,ゴールは常に定まっているとは限らず,「鑑賞」活動における自己との深い対話の中で設定と更新が行われている。その過程において,子どもたちは自分にとっての意味や価値を模索し,表したいことの実現に向かっているのである。その模索を生み出すと共に活性化させるためには,素材や場,空間の設定と題材配列がうまく機能することが重要である。
素材や場,空間の設定に関しては,子どもの発達段階に応じた素材であること,試行錯誤可能な素材や場の設定をすること,さらに,活動の時間を十分に保障することが考えられる。題材配列に関しては,特に,創造的な活動を支える知識・技能を適切に発揮・獲得しながら表現活動を進められること,形や色を媒介として自他との対話が繰り返されることに留意したい。ねらいに沿った探究につながる自己調整が行われる必要があるため,知識・技能の習得は欠かせない。対話の中で生み出される学びに関しては,活動の中で身体感覚的に子どもの中に蓄積されていくことが多い。よって,必要に応じて言語化する活動を取り入れたり価値付けしたりすることにより,理性的な理解を促し,自他の表現を「みる」視点を与え,価値や意味に気づく素地を養うようにする。
5.研究の評価
全身の感覚を働かせて外的世界との関わり合いを模索する姿の見取りや子どもによって生み出され続けるかたち(活動過程の成果物),図工カード(言語や図による記述)を,以下の観点で考察し,研究の成果と課題を明らかにしていく。
①題材の中で与えたものが,年齢に即していて,子どもの探究を支えるものであったのか。
②素材や場,空間は,子どもの価値や意味の模索にうまく機能していたのか。
③題材配列や題材計画は,子どもの“気づく”場面に機能し,子どもの変容を促していたか。
また,上記の観点について,活動の結果生み出されたかたち(作品)や図工カード,子どもの姿やつぶやきの見取りなどの記録を時間軸で比較し検証していくことで,研究の質的評価を行う。